高島平将棋クラブで6局撮って、そのまま出せたのは1局でした
3週間前に行橋の大会レポートを書いたとき、最後に宿題を1つ置いて終わりました。子どもの早指しにまったく歯が立たなかった、次はカメラだけで残せるようにしたい、と。8月23日、板橋区の高島平将棋クラブにお邪魔して、その宿題を取りに行ってきました。録画に使ったのはiPhoneが1台です。対局が始まったら録画を回して、終わったら止める。6局ぶんで合計64分の動画になりました。帰ってから全部を変換にかけて、出てきた棋譜を1手ずつ見ていったのが翌日の夜のことです。先に結果を書いておきます。そのまま出せたのは、6局のうち1局でした。
6局の採点表
採点は3つに分けました。そのまま出せる、1箇所直せば出せる、出せない。順に1局、2局、3局です。打率としては、まあ、人に自慢する数字ではありません。
変換そのものは、あっけないくらい早く終わりました。64分の動画が14分ほど。ただしこれは、アプリと同じ認識の仕組みを手元のMacで走らせて、1本ずつ流したときの実測です。アプリのボタンを押して変換したわけではないので、そのままアプリの速度だと思わないでください。
時間を食ったのはそのあとでした。出てきた棋譜が本当に合っているのかを確かめる作業が、翌日の夜まで続きます。
いちばん苦手な条件は、行橋のときと同じでした
ひどかったのは、2分23秒の対局から8手しか出てこなかった1局です。7手目が自殺手になって、そこで止まっている。最初は途中から撮り始めてしまったのかと思って映像を見に行きましたが、そうではなくて、ちゃんと平手の初形から始まっていました。
理由は2つありました。1つは速さです。最初の27秒で8手から10手。1手あたり3秒で、駒を置いた瞬間の静止がありません。もう1つは腕でした。上手側の方の腕がずっと盤の左上に乗っていて、後手の駒台に近いあたりが慢性的に隠れている。認識の結果を時系列で追うと、最初の8秒のあいだに7九の銀と8八の角と5九の玉が、消えたり別の駒に化けたりを繰り返していました。
これ、行橋で書いたのとまったく同じ壁なんですよね。あのときも「着手した、という検出そのものが成立しない」と書きました。大会から3週間たって、同じところに戻ってきたわけです。
残りの2局も似た崩れ方でした。片方は中盤の11手ぶん、2四のマスが「復元では歩、映像では飛」でずっと食い違ったまま走っています。要確認として上がってきた件数は2件しかなくて、最初は軽症かと思ったのですが、盤ごと別物になってしまうと矛盾の出方まで静かになるようです。もう片方は二歩が6件でした。1局に6件出たら、それは反則ではなく機械が駒を取り違えているサインです。
出せた1局は、何が違ったのか
24分29秒、110手。そのうち102手が映像で実際に見えた手で、機械が前後から補ったのは8手だけでした。非合法手ゼロ、二歩ゼロ。
読んでみると、相掛かりから9筋の端攻めになって、香を交換して、終盤は馬を切って飛車が成って、玉が6一まで追われる寄せ合いになる。取った、取り返した、の対応が全部合っている。棋譜として普通に読めました。
面白かったのは消費時間です。先手12分23秒と後手12分2秒を足すと24分25秒で、動画の長さ24分29秒とほとんど同じになる。手が抜け落ちていたら、ここに穴が空くはずなんです。
つまりこの局が読めた理由は、将棋の中身ではなくて時間の使い方でした。長考が入る対局は、駒が置かれたまま静止する時間がある。機械が見ているのは、たぶんそこだけです。
6局とも人力で起こして、答え合わせをしました
翌日、6局とも自分の目で全部起こしました。正解が無いと、機械がどこで間違えたのかを言えないからです。
ところが、既存の棋譜入力ツールでは反則手が入力できません。王手放置も玉を取る手も受け付けてもらえないので、反則手が通る入力画面を自分で作りました。作ったその日に6局を完走したので、これは作ってよかったです。
突き合わせた結果、いちばん良かった局は110手中109手が一致しました。違ったのは1手だけで、しかもすぐ取られてしまう駒の、成るか成らないかのフラグです。
機械が間違えるときの型も見えました。飛車と銀、銀と歩。この2組を取り違えている。あと「4一に相手の銀がずっと居座っている」と見えていた箇所は、調べてみると10手ぶんは本当に居座っていて、そのあと取られたのを機械が見落として、そのまま盤に残していました。全部が嘘なわけではなくて、終わりのほうだけ見落としていたわけです。
子どもの将棋は、玉を取って終わる
6局のうち4局が、王手放置からの玉取りで終わっていました。
王手がかかっているのに気づかないまま別のところに手が伸びて、次の瞬間に玉が盤から消える。それで一局が終わる。検証プログラムのほうは4局とも正しく「ここで王手が放置されています」と名指ししてくれたので、機械は間違えていません。間違えていないのですが、機械が思っている「棋譜」と、目の前で起きている将棋が、少しずれている感じはありました。
からかいたいわけではなくて、むしろ逆です。こういう終わり方をした一局こそ残しておく価値があるんじゃないかと思っています。何年かして本人が見返したときに面白いのは、たぶんこっちです。
二歩は、6局で1件だけ本物がありました。66手目です。もう1件それらしいのが上がっていたのですが、こちらは機械が銀を歩と見間違えていたほうで、映像を確認して取り下げました。
送る直前に、ファイルが1つ死にました
メールで送る前に、念のため全ファイルを検証にかけました。自作のチェックではなくて、世の中で実際に使われているKIFの実装に読み込ませて、最初から最後まで再生できるかを見る、というやつです。
ここで1つ落ちました。二歩の入った局が、ファイルごと拒否されるんです。66手目でエラーになって止まる、ではありません。このファイルは読めません、という扱いになる。
不思議なのは、王手放置は通ることでした。玉を取る手も通ります。二歩だけが通らない。棋譜のファイルとしては、玉が盤から消えることより、歩が2枚並ぶほうが重罪だったわけです。
対処としては、その局だけ65手までの版と、118手ぶんの全記録をテキストにしたもの、の2つに分けて送りました。反則で終わった対局を反則の手前で切るというのは気持ちの悪い解決なので、さっきの入力ツールのほうに「反則手の手前で自動的に分割して書き出す」を宿題として積んであります。
お渡ししたもの
最終的に、6局ぶんの棋譜をメールでお送りしました。二歩で途中から読めなくなる1局だけは、65手までの版と118手ぶんの全記録テキストの2つに分けています。
1つだけ、書けなかったことがあります。6局とも、録画のほうが対局より先に切れていました。いちばん良かった24分の局も、最後の手が24分25秒で、動画は24分29秒。別の局にいたっては、動画の終わりのコマに対局時計が写っていて、まだ動いていました。だから「まで◯手で先手の勝ち」とは書けなくて、「録画が続いていたところまでの棋譜です」と一言添えてお送りしました。
次に撮らせてもらうときは、終局してから止める。それだけの話なのですが、6局とも同じことをやっているので、たぶん私の癖です。
その後 — 6局が先生になった
ここまでが8月23日と24日の話です。成績としてはひどいものでした。
ただ、この6局には他に無い価値が1つありました。人力で全部起こしてあるので、正解が付いている。しかも早指しあり、腕の遮蔽あり、反則ありという、いちばん条件の悪い映像に正解が付いている。
こういう素材は、持っていると強いんです。改良を1つ入れるたびに6局を流し直して、467手のうち何手が正解と一致したかを数える。数えられるようになると、思いつきの改良と本当に効いた改良が区別できます。それまでは「なんとなく良くなった気がする」で進んでいました。
そこから数日、この6局を先生にして手を入れました。
撮影の4日後、8月27日に公開したアプリの更新に、その改良が入っています。同じ6局をアプリと同じ設定で通し直すと、467手のうち449手が正解と一致しました。96.1%です。8月23日の時点で、そのまま出せたのが6局中1局だったことを思うと、ずいぶん変わりました。
もう1つ、速度や容量を気にせず精度だけを全部取りに行った実験用の仕組みも並行して作っていて、こちらは同じ6局で467手中467手。全局全手が、人力で起こした棋譜と一致しました。指し手の表記まで含めて完全に同じです。
ただ、この数字は割り引いて読んでください。この6局を先生にして調整したのだから、この6局が当たるのは当然、という側面があります。自分で作った問題集を自分で解いているようなものです。
なので別の映像でも測りました。7月の行橋大会で撮った、今回の調整には使っていないほうの映像です。こちらは520手のうち486手が一致で、93.5%でした。これも正直に書いておくと、大きく崩れた1局の原因を突き止めて直したあとの数字なので、本当に手つかずの素材で測り直すのは、次に新しい映像を撮らせてもらってからになります。
いまは、この実験用の仕組みをアプリのほうに降ろしている最中です。いつ、とは書かないでおきます。何度か「来週には」と言って外してきたので。
8月23日に出せなかった3局は、いまのアプリではまだ出せません。あの1手3秒の局も、実験用の仕組みのほうでは全部当たっています。ただ、それが本当に解けたのか、この6局を覚えただけなのかは、次の新しい映像を撮ってみるまでわかりません。あの6局は、消さずに取ってあります。
撮影と実演を受け入れてくださった高島平将棋クラブの皆さん、ありがとうございました。うまくいかなかったところまで含めて書かせていただきました。
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