将棋大会の12局をカメラだけで棋譜にしてきた|行橋名人戦レポート
アマチュアの大会って、対局が終わると棋譜が残らないんですよね。感想戦で「さっきのあれ、どう受けるのが正解だったんですかね」と言っている間に、盤上の証拠はもう崩されている。プロなら記録係がつきますが、われわれの一局は基本、消えていきます。
8月2日、福岡県の第8回ゴーゴー行橋将棋名人戦にお邪魔して、これをなんとかする実験をさせてもらいました。対局をカメラで撮る、それだけで棋譜になる、というのが私が作っているサービスです。参加者は総勢102人。5クラスが同時に対局する、かなり大きな大会でした。
当日の様子
持ち込んだのはアクションカメラと三脚とMacが1台ずつ。前日の夜にホテルで実カメラのリハーサルをやって、62手の練習対局がノーミスで記録できたので、まあいけるだろうと思いながらの本番でした。
デモ卓では「ライブ棋譜記録」を動かしました。駒が着地すると「ピッ」と鳴って、1秒くらいで「ななろくふ」と符号を読み上げます。記録係さんが復唱してくれるあの感じを機械でやりたかったんです。読み上げの声は音声合成のVOICEVOX(九州そら)で、九州の大会なので九州の声にしました。誰も気づいていなかったと思いますが。
対局の撮影は支部の方が3台のカメラで回してくださいました。大会が終わって受け取ったSDカードの中身は、合計98GB。ここからが本番でした。
撮るだけで棋譜になる、とは言ったものの
正直に書くと、届いた録画は一筋縄ではいきませんでした。
まずカメラ3台とも横向きに設置されていて、映像の中で盤が90度倒れていました。カメラ内蔵の時計もバラバラで、ある録画は2024年1月1日、別の録画は6月16日を名乗っている。録画は駒並べの最中から始まっているので、並べる手つきまで「指し手」として拾ってしまう。極めつけは48分まわしっぱなしなのに、写っていたのは終局後の盤面だけ、という録画もありました。たぶん停止ボタンの押し忘れです。
それでも、複数ファイルの結合、向きの自動判定、「平手の初期配置が完成した瞬間」の検出、対局ごとの切り出し、という処理を全部つなげて流したら、12局ぶんの棋譜候補が出てきました。精度は対局によってだいぶ差があって、大人の落ち着いた対局は数カ所の確認で済むレベル。一方でボロボロだったのが、子供の早指しでした。着手の間隔が1秒台で、駒から手が離れない。認識うんぬんの前に、「着手した」という検出そのものが成立しないんです。
最後は人間と機械の共同作業
というわけで、仕上げの検品は人力です。ただし丸腰の人力ではなくて、私が映像を見ながら「ここは2二角成のはず」と手順を読み、プログラム側が盤面の整合性を検証する、という分担にしました。手番が合わない、移動元にその駒がいない、持ち駒の数が合わない。矛盾があれば機械が即座に指摘してくるので、また映像に戻って確認する。この往復です。
認識がほぼ全滅だった子供の対局は、映像から全手順を読み上げて、一手ずつ合法性をチェックしながら組み直しました。75手、最後までつながったときはちょっと感動しました。別の一局では、最終手の「7一歩打」が二歩だったことまで検証プログラムが裏付けてくれました。反則負けの記録が残るのは本人には微妙かもしれませんが、それも含めて一局です。
そんなこんなで12局すべて確定して、1局1ページの棋譜集にして支部へお渡ししました。対局中の写真と戦型と結果、それからスマホで棋譜が開くQRコード付きです。
宿題と、次の約束
帰り道からずっと考えているのは、あの早指しの子の対局のことです。今回は人間の目で救済しましたが、本来はカメラだけで残せないといけない。親御さんがいちばん棋譜を欲しがるのは、たぶんああいう一局だからです。
幸い、教材は手に入りました。あの4分間の録画は、手の写り込み・短い着手間隔・腕の常時侵入という悪条件が全部入りで、次のモデルを鍛えるのにこれ以上ない素材です。今回の録画をリアルタイムでも認識しきれるところまで改善して、次の大会では後日のお届けではなく、終局した卓でその場でQRをお渡しする。それが次の目標です。
大会当日の様子は、行橋支部の公式サイトの写真ページにたくさん上がっています。私のデモ卓の写真まで載せていただきました。行橋支部の皆さん、撮影を回してくださった金丸さん、本当にありがとうございました。
大会運営の方へ
同じような大会や将棋教室のイベントで「対局を棋譜に残したい」という運営の方がいらっしゃいましたら、ぜひお声がけください。機材はこちらで持ち込みます。ベータ期間中につき、費用はいただいていません。
連絡先: nkkumaservice@gmail.com
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